池尾教授の論考を読んで
とも弁護士のお勧め(?)にしたがって、「金融財政事情」2009年1月5日号の池尾和人慶応大学経済学部教授の“特別論考”を読んでみた。
池尾教授の論文は以前にも目にしたことがあるが、多くの大学の先生が金融危機についてテレビなどで上滑り的・ポピュリスト的な不毛な議論を繰り返す中で、その分析能力や現実を客観的にみる力は抜きん出ているという印象を受けたことがある。
今回の論考の詳細はとも弁護士のブログに譲るが、市場型間接金融が重層的な状態であったことがバブルの形成と崩壊のひとつの背景と捉えている部分、平穏な時代が続いたことによってリスクに対する感度が鈍ってしまっていたという指摘、今後の道筋として“バリューアップ型金融への転換”を提示しているところなど、うなずける部分が多い。
一方で、事実を誤認している部分も目立つ。本質的な部分とは関係ないところもあるが、一応指摘しておきたくなる。
ひとつはSIVについて。「SIVは第二次証券化商品の買い手である」としているが、SIVの保有資産の約半分は銀行のシニア債・期限付劣後債などの金融債であり、北米の住宅ローンへのエクスポージャーは10%程度に過ぎず、サブプライムに至っては2%程度で、再証券化商品の保有はごく一部に限定される。「資金の調達手段はABCPの発行とCDOのレポで、レポ市場の消滅が打撃となった」としているが、これも逆で、危機発生前はABCPやMTNに頼っていたのが、ABCP/MTN市場の機能停止によって、レポによるファンディングに切り替えたSIVが多く存在した。
そもそも、SIVを運営していた銀行は全世界でCitigroupやHSBCなどの10行程度に過ぎず(JPMorgan、Bank of America、Deutsche、BNP Paribas、RBS、主要投資銀行などはSIVをスポンサーしていない)、銀行スポンサーのSIVの資産はピーク時でも2800億ドル程度で、証券化商品はその約半分、北米の住宅ローン関連はその10%程度、サブプライムは50億ドル程度の保有なのだが、大手金融機関はシャドーバンキングシステムにおいて住宅ローンなどの証券化商品にレバレッジ投資をしたとして、その影響を過大評価して諸悪の根源的な存在とする批判が多く見られる(池尾教授の論考では比較的中立的な書きぶりという印象は受けた)。
もうひとつはCDSについて。「リスクを隠して」、「準備金を積まずに、全部収入にして」、「プロテクションの売り手の経営が悪化した」とある。経営が悪化したモノラインやAIGなどがCDSのポジションをdisclosure上や当局検査において隠したという話は聞いたことがない。少なくとも、彼らがCDSで証券化商品のスーパーシニアのリスクを大量にとっていたことは市場関係者であれば知っていることであり、各種の格付けレポートやリサーチレポートにおいても取り上げられている。全部収入にするといっても、たとえば5年の取引で年率0.10%のプレミアムを受け取る場合、取引時に前倒しで5年×0.10%で0.50%を収益として計上できるはずもない。CDSに限らず、金利スワップなどでも将来の支払いに備えて準備金を積むという実務はなく、代わりに時価評価を行なうことで、将来の支払い増の可能性がP&Lに反映されることになる。GMを参照するCDSのプロテクションを売っていたとすると、元本が10億円の取引を時価評価するとたとえば1億円とかになり、9億円が損失としてP&Lに計上される。この辺は、デリバティブと(そもそも時価評価をしない)融資との違いであるが、融資においても引当金を計上するしない・計上するとしたらいくら計上するかは、サイエンスというよりはアートの世界のように思う。
こちらの先生はAIGを名指しして会計に問題があったとしているが(監査法人や監督当局から訴訟されるリスクは大丈夫なのだろうか、、)、デリバティブというと会計が胡散くさいという印象を持つ人は少なくないようだ。基本的にすべて時価評価にして、融資や社債よりも高い透明性を達成してきたわけなのだが、、、。もっとも、なんでも時価評価すればよい、というわけでもない時代になってきたようにも思う。
2009.01.30 | Comments(2) | Trackback(0) | CDS



