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CDSのクリアリング

現在相対で取引が行なわれているCDS市場にクリアリングを導入しようとする動きが活発である。もともとは、サブプライム危機・金融危機が始まる前の2006年頃から民間で検討が始まっていたが、ここ1年ほどは規制当局や政治家からの強い圧力のもとに、作業が急ピッチとなっている。

欧米市場では、現在5つのグループがCDSクリアリングビジネスへの参入の意向を表明しているが、そのうち本命・本丸ともいえるIntercontinental Exchange (ICE)が、3月9日から北米のCDXインデックス取引のクリアリングを開始する準備が整ったようである。ICEは昨年12月にNY州銀行局から、先週はFRBとSECから認可(SECからはexemption)を獲得し、インフラ面でもDTCCやMarkitとの提携やThe Clearing Corporationの買収を行ない、当初メンバーであるJPMやMSなどの大手10社から出資を受けている。

プレスリリースによると、当初はCDXインデックスからスタートし、4月にはシングルネームにも広げるとの意向を表明している。CDXインデックスは現在でも"固定スプレッド"・"2CE"・"固定開始日・固定満期日"とクリアリングに必要な商品性の統一が進んでいるが、シングルネームCDSは4月8日から市場慣行が変更される見込みで、クリアリングも市場慣行の変更待ちといったところだろうか。欧州では、LIFFEが昨年12月にシステムや認可関係で稼動準備を完了したが、現在までにまったく利用されていない。ICEの方は主要ディーラーのサポートが期待できることから、こちらは少しずつでも利用が始まるのだろうか。

クリアリングが導入されても、取引は引き続き相対で交渉・合意される。取引合意後に、「JPM対BNP」という取引が、「JPM対クリアリング」と「クリアリング対BNP」の2つに分解される。重複する取引などは、クリアリングレベルでネッティング・解消されることから、事務効率の改善は期待できる。

クリアリングについては、某大手新聞社などを中心に、誤解されている部分が多い。主なものを挙げると、

・「クリアリングによって銀行等が抱えるCDSのポジションが清算・解消される」

-日本語で"クリアリング"は"清算機関"と訳されることから、不良債権買取機構やBad Bankのようなイメージがあるのかもしれない。AIGに関する記事でも、AIGのCDSはまだ2割程度しか解消されていないとの論説があり、「CDS = 問題の根源 = 解消されるべきもの」との思い込みが伺えるが、当然のように、取引で参照するものによってCDSは"優良資産"にも不良資産"にもなり、AIGについて言えば住宅ローン関連のCDOを参照する"不良資産"だけを現在までに解消したということである。

・「クリアリングによって複雑な取引が整理される」

-クリアリングは最も単純なCDSのみを対象とし、最も単純なCDSを上述のように2つに分解するだけである。

・「クリアリングによって価格の透明性が高まり価格形成が安定的となる」

-クリアリングの値洗いには現在も広く利用されているMarkitのデータベースが使われる。市場参加者にとっては、クリアリングによって価格の透明性が向上するというメリットはない。それに、取引所取引であり価格が"透明"であるからといって、株価の動き・価格形成が安定的になっているだろうか。

・「CDS市場の価格は事実上消えた。クリアリングの導入が待たれる」

-価格が消えたら業界全体で1週間で数万件単位で取引は成立しない。価格が不透明になっているのは、セカンダリー市場が機能しなくなった証券化商品やこれを参照するCDS取引が中心で、こうした取引の市場シェアは小さく、また、こうした取引はそもそもクリアリングには乗らない。

・「現在はクリアリングがないために、市場参加者は互いに疑心暗鬼になって市場は停滞している」

-海外市場では、インターバンク市場での取引量はピークからは落ち込んでいるが、引き続き大手ディーラーは毎日1000件前後の取引を行なっている。

・「クリアリングによってカウンターパーティー・リスクがなくなる」

-クリアリングに参加するのは、大手金融機関が中心であるが、参加者のほぼすべては現在も担保契約付で取引を行なっており、クリアリング導入による追加的なメリットは小さい。

-現在、ISDAのマスター契約によって、当事者の破綻時には、金利スワップ・通貨スワップ・CDSなど、あらゆる店頭デリバティブ取引の勝ち負けが一括清算ネッティングされる。金利スワップで+100、CDSで-100であれば、ネッティングが有効であればプラスマイナス・ゼロで損失は発生しないが、ネッティングが有効でないとCDSでの負け分の100を払わされた上で、金利スワップの勝ち分である100は一般債権者と同じ立場で回収を行なわなければならない。CDSだけをクリアリングという”別枠”に乗せることによって、全体でのネッティング効果は薄れてしまう。CDSのクリアリングが複数設立されると、このネッティング効果はさらに弱まる。

-クリアリング参加者の破綻時には、宙に浮いた取引をクリアリング自身がカバーしなければならない。その際に発生する損失は、クリアリング参加者間で負担することになる。Lehmanの破綻によって、A銀行が100損失を出し、B銀行は損失がゼロだったとすると、クリアリングによってA銀行もB銀行も50ずつ損失を被る、といったイメージである(大雑把な議論だが)。ようは、リスク管理の巧拙にかかわらず、業界全体で均等に損失をシェアしましょうというシステムである。


ということで、クリアリングは万能薬からはほど遠いのだが、数少ないメリットとしては、規制当局が市場全体の動きを把握して、風説の流布やインサイダー取引の取締りなどを行なう際に、クリアリングの情報は有効となる可能性がある。本質が見えていない政治家やアカデミズムやメディアによる的外れな批判が減るのであれば、それも大きなメリットといえるかもしれない。それ以外では、CDSだけのクリアリング導入は、ないよりはましか、逆にネッティング効果を下げてしまいかねない、というのが実際のところであろう。




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2009.03.08 | Comments(4) | Trackback(0) | CDS

コメント

当ブログへご来訪ありがとうございました。

非常に貴重な情報を展開されてらっしゃるようで、恐れ入りました。
今後RSSフィードさせていただきます。
ありがとうございました。

2009-03-08 日 10:38:37 | URL | mikeexpo #- [ 編集]

こんにちは、いつもお勉強させていただいています。
ほとんどの議論に関しては、本当にその通りだと思いますが、「クリアリングの値洗いには現在も広く利用されているMarkitのデータベースが使われる。市場参加者にとっては、クリアリングによって価格の透明性が向上するというメリットはない。」...という部分、お説はごもっともではありますが、ディーラーとしての市場参加者にとってメリットなくても、外から確認しやすくはなるというのはメリットとしてあるのかな?と思うのですが...ディーラーワールドにいると当然と思うことも、外から見るととてもわかりにくい、というのがデリバティブなのではないでしょうか?
また、ISDAは個別にカウンターパーティ毎に結ぶ契約であり、本当のディーラー間以外は、力関係などにより不公平が生じがちであり、交渉に長い時間がかかるのに対し、対クリアリング組織の契約はずっと入り安いというメリットもあると思います。最後に個別与信管理と対決済機関で一括管理は、実際には与信管理や回収の手間を考えると結構違うのではないか?と思うのですが...まあ、CDSだけが決済機関一括になっても他のデリバティブの与信管理が残っているのでは意味はないかもしれませんけど...。

2009-03-09 月 14:17:05 | URL | さより #- [ 編集]

mikeexpoさん、お役に立てればうれしいです。

さよりさん、透明性に関するご指摘、ごもっともですね。ディーラーに限らず投資家も含めて、実際に取引を行なっていると、Markit、Bloomberg、Quick、証券会社のレポートなどなど、情報にあふれていているのですが、取引をしていないと、新聞で報道されるインデックスの価格くらいしか自然体では情報は入手しにくいかもしれませんね。

クリアリングについては、クリアリングハウスによっても若干異なりますが、参加するのは基本的にディーラーのみで、ディーラーとエンドユーザーの取引は引き続き相対で行なわれることになります。ICEのクリアリングでは、シングルAフラット以上で純資産額が50億ドル以上といったような参加要件があり、当初はディーラーだけが参加するようです。

究極的には、すべてのOTCデリバティブが1つのクリアリングにのれば、与信管理も担保管理も随分楽になると思います。CDSの一部だけにクリアリングをはじめるのは、第一歩としては評価に値しますが、まだまだ先は長そうにも思います。

2009-03-09 月 22:38:44 | URL | dbsb #- [ 編集]

CDSとかレバレッジをかけたために経済がマヒしたんですか?

2009-03-11 水 21:43:37 | URL | こっぽー #- [ 編集]

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